研究概要 |
平均結晶粒径100ミクロン以下のSUS316L粉末に,MM(メカニカルミリング)を施すと,微細なα相が生成し,MM時間が長時間なほど,また,ひずみエネルギーが大きいほどα相の割合が増加する.本年度の研究では,ナノduplex,組織の形成メカニズムを検討した. 供試材は,PREP法で作製したSUS316L鋼粉末(平均粒子径〜1.0mm)である.この粉末に1373K-72ksで均質化を施した後,炉冷しAr雰囲気中で遊星型ボールミルによりMM処理を720ks施した.MM粉末をXRD, SEM, TEM/EDS観察に供し,組織観察を行った. (1)MM前後の粉末表面および断面のXRD観察結果から,MM前,つまり均質化後の粉末は粉末表面,内部ともにFCC単相であり,また,SEM観察写真より,粒径数百nmであることがわかった.PREP粉末は,粒子径が大きいので,長時間の均質化処理によって固化しない. (2)MM後の粉末表面および断面のXRD観察結果から,表面部はBCC単相であり,断面はFCC+BCCの2相であることがわかる.MMを720ks施した粉末では,幅数十nm,長さ数百nmのナノレイヤー組織が観察された.粉末の中央には図に示すように空洞が確認できた.空洞は,中心部に変形が集中したこと,および表面部のナノレイヤー組織生成による,半径方向の伸びのためであると考えられる. (3)MMを720ks施した粉末の内部領域における,TEM観察写真および,ほぼ同じ領域から撮影した制限視野電子回折像(SADP)から,粉末内部でも,結晶粒径100nm程度の微細粒が観察でき,この領域ではSADPよりBCC+FCCの2相であることが明らかとなった.MMした粉末粒子の中央の粒は粒径が100nm程度であり,粒界が滑らかであるという特徴をもっている.この粒は,SADP観察結果よりBCC相であった.また,MM粉末を85℃-3.6Ksで熱処理を施すと,粉末内部は約70Hv軟化した.以上のことから,粉末内部のnano-duplex中のBCC粒は,不均一変形帯の増加による核生成,そしてMM中に多量に導入される空孔によるγ自由エネルギーの上昇にともない,マッシブ的にγ→BCC変態したものであると考えられる.
|