代表的な絶縁材料である有機高分子樹脂の表面に金属を無電解めっき法にて成膜処理を施す際、素材表面におけるエネルギー分布を化学処理にて変化させ親水性を向上させる必要がある。現在そのために行われる処理法には、クロム酸過マンガン酸等の強力な酸化剤が必要であり、それらの酸化剤には重金属を含むため、環境による影響は甚大である。また、今後のエレクトロニクス分野の発展による、電子機器の内部配線の微細化に対応するためには素材基板の表面粗さは問題となる。それらの観点から、本研究では従来にない光触媒を用いた素材表面への官能基導入による導体層形成法の確立について検討を行った。 今回は、一般によく用いられる素材としてABS樹脂について検討を行った。手法としては光触媒となる二酸化チタン(TiO_2)を分散させた溶液に、基板を浸漬し上部から紫外線を照射した。TiO_2は、紫外線の照射により活性化し、水から強力な酸化剤である水酸化ラジカルを生成する。その酸化力を用いて、樹脂表面を親水化し、絶縁樹脂へのめっきを可能にすることを目的とした。その結果、親水化処理後の樹脂表面をFT-IR(島津製作所製FTIR-8400s)にて測定を行ったところ、親水化処理を施したテストピースは、未処理の基板と比較して、波数1700cm^<-1>付近にカルボニル(C=O))基、波数3500cm^<-1>付近にヒドロキシル(-OH)基に起因する吸収ピークが確認された。したがってABS樹脂に親水化処理を行うことにより、カルボニル基等の官能基の導入が可能であり、これらの官能基の導入によってABS樹脂表面の親水性が向上したと推測される。また、親水化処理後触媒化を行い、無電解めっき法にて金属皮膜を形成したところ、およそ0.5kgf/cmの密着強度をもつ皮膜形成に成功した。
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