平成14年度はトランプエレメント検出器の製作を行つた。トランプエレメント検出器の原理は低圧レーザー誘起プラズマ発光分光法である。測定子となる小型の減圧チャンバーと試料板との気密性を保つため特殊なシリコンゲルシート((株)ジェルテックΘ-5)をパッキングとして用いたところ、試料板の表面が荒れていたり波打っていても、シリコンゲルシートが試料表面の形状に適合するためチャンバーの真空を保つことができた。スクラップ鉄の表面は平滑ではないことが予想されるので、今回製作した減圧チャンバーが実際のスクラップ鉄試料にも使用できるものと思われる。 そこで、緑及び灰色に塗装された鉄板やトタン板をスクラップ鉄のモデルとして使用し、今回製作した減圧チャンバーを用いて低圧レーザー誘起プラズマ発光スペクトルを測定した。雰囲気としてはAr及びHeを用い、Nd : YAGレーザー光の伝送及び集光は誘電多層膜ミラーと平凸レンズを用いた。その結果、緑色の塗料中にはCrが含まれ、灰色の塗料中にはTiが含まれること、また、パルスレーザー光の照射回数を制御することにより深さ方向分析が可能であり、塗装膜及びバルクの元素分析が区別して行えることが確かめられた。この結果は学会講演及び論文により公表した。 また、減圧Ar、Ne及びHe雰囲気中でトランプエレメントであるSn及びZnの発光特性を調べたところ、試料原子と雰囲気ガスとの衝突により第一種の衝突励起が起こること、またNe雰囲気中では特定のZnイオンの発光強度が選択的に増加し、それはNeイオンとZn原子の共鳴的電荷移動衝突により起こっていることがわかつた。この結果は学会講演により公表した。
|