本研究の目的は、ガラス基板上に形成した電極形状に依存してポリマーブレンド溶液層内部に発現する電気流体力学的(EHD)対流の様々な対流構造を利用し、流れの構造と多成分流体混合系の相分離過程の相関について明らかにしようとするものである。すなわち、任意形状の電極を形成したガラス基板2枚(一方の基板のみ電極を形成)の間にポリマーブレンド溶液を挟み、電極に直流電場を印加すると、電極形状に依存した不平等電場に起因して溶液内にEHD対流が発生する。このとき、系をクエンチすると相分離を生じ、その過程がEHD対流の構造や強度に影響される。本研究では、クエンチ法として溶媒蒸発並びに冷却の2つの方法を試みた。さらに、流体力学的効果を考慮したCahn-Hilliard(CH)モデルに基づく相分離過程の数値シミュレーションを行った。 具体的には以下のような結論を得た。 1.EHD対流、相分離過程の観察 polystyrene(PS)及びpoly(vinylacetate)(PVA)を用い、重量比が1:1、全ポリマー濃度が4wt%となるようにtolueneに溶解したポリマーブレンド溶液を試料とし、これを規則構造を有する電極付ガラス基板上の30×40×2mmの溝に展開し、直流電場を印加するとともに、装置内に窒素ガスを流入して溶媒を蒸発させ、溶液内の対流および相分離構造の経時変化を位相差顕微鏡によって観察した。結果として、電極形状に依存して発現したEHD対流に拘束された相分離構造(電極1ユニットにPVAリッチ液滴が拘束された構造)が得られた。また、この構造は印加電圧に強く依存することがわかった。 一方、冷却による相分離に関しては、装置上の様々な問題が明らかとなり、これを改良することに時間を要し、相分離過程の詳細な観察までには至らなかった。 2.相分離過程の数値シミュレーション 流体力学的効果を考慮したCahn-Hilliard(CH)モデルに基づく相分離過程の数値シミュレーションコードを開発するとともに、これを利用し相分離構造に及ぼすキャピラリー力、重力、温度勾配の影響を明らかにした。
|