研究概要 |
本研究では、地熱エネルギー利用システムにおいてシステム阻害の最大要因となるスケール生成機構を化学工学的アプローチによって解析し、その知見を基にスケール析出を抑止するシステム開発に寄与する基礎データを提供することを目的とする。本年度においては、シリカスケール析出の物理化学的機構の解析を行うために、これまで行ってきた模擬熱水としてケイ酸ナトリウム水溶液を使用したシリカ重合速度に関わるシリカ濃度や温度、pHおよび共存イオンの影響についての系統的な実験を引き続き行った。また熱交換システム等に付着するスケール成分の分析およびスケール抑止技術に関する実態調査を行い、各技術についてプロセスおよび設備設計の難易度、薬剤使用の場合の薬剤コスト、期待されるスケール抑止効果、還元井の保全機能、回収成分の処理問題および処理コスト等の観点より評価を行った。その結果、新しいスケール抑止技術としてシード添加法および超音波抑止法を提案し、その最適設計のための基礎実験を進めている。シード添加法は熱水中の過剰シリカ成分をシード表面上に析出させる抑止法で、具体的には、シード添加による熱水中のケイ酸濃度の変化をモリブデンイエロー法により測定して吸着曲線を求め、吸着速度式および速度定数の温度依存性より活性化エネルギーを算出し、シード添加量最適設計の基礎資料として提供した。算出した活性化エネルギーは約6〜8kcal/molで、速度定数と初期過飽和度との間の明確な関係が明らかにされた。また溶存する金属イオンの影響をpH値依存性の観点より明らかにした。特にAlイオンの存在によりpH=7ではケイ酸の重合は抑制され、pH値の上昇により重合が促進されると一般にはいわれているが、本研究ではいずれのpH値においてもシリカ析出が抑制されることが明らかとなった。Fe(2価)を添加した熱水のシード添加法による結果では、pH=7および9の場合とともにシードへの吸着は抑制されているが、Alイオンほどその影響が顕著には認められなかった。さらに他の塩類の添加による結果からは、シードへの吸着が抑制される結果は得られなかった。一方、超音波照射によるスケール抑止に関する基礎実験を行い、照射エネルギーと抑止効果および最適照射法を中心に検討した。なお対象スケールには、研究代表者がその析出機構を明らかにしている硫酸カルシウムを使用した(Mori, H. et al., J.Chem.Eng.Japan)。その結果、スケールの核生成期間における超音波照射が極めて効果的であることが明らかとなり、周期的な超音波の間欠照射によりスケール生成を長期間にわたって抑止できることを実験的に明らかにした。この結果を地熱水におけるシリカスケールに適用する可能性を現在検討している。なお、この成果は現在論文として投稿準備中である。またヒートパイプによる熱水のエネルギー利用に関連して、ウィック内の飽和および不飽和流れに関する実験結果をまとめ、J.Chem.Eng.Japan誌に投稿中である。
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