ヒトゲノム解析結果と各種疾患の因果関係が明らかになるにともない、遺伝子の増幅技術は多くの産業分野で必要不可欠の技術となりつつある。これにともない遺伝子や遺伝子操作に起因する生体関連物質の増幅や合成技術の開発が求められている。生体より抽出した遺伝子(DNA)を解析可能な量まで短時間で、しかもエラーを最小限にして、増幅させる技術として、酵素(耐熱性DNAポリメラーゼ)反応において温度を制御し遺伝子増幅を行うPCR(Polymerase Chain Reaction)法が最も多く用いられている。特にPCR反応においては、さらなる遺伝子増幅速度の高速化と増幅エラーの削減が望まれており、新たな酵素の探索やプライマー(前駆体)の改良が継続的に行われている。そこで本研究では、従来水溶液中で行われていた遺伝子増幅反応を超臨界二酸化炭素で行うことにより、新たな遺伝子増幅技術の開発を検討した。 プライマーや酵素等の生体関連物質は、その表面に親水性の官能基を有することから、超臨界二酸化炭素に対する溶解度は極めて小さいことが知られている。一般に液体溶媒中での酵素反応を検討した場合、酵素の溶媒中での溶解および分散状態が酵素反応に大きく影響を及ぼす。そこで本研究では、W/Oエマルション法により酵素を高分子界面活性剤で被覆し、酵素の活性部位を保護することで超臨界二酸化炭素中でも酵素の活性を維持する手法を提案した。特に酵素の活性部位に少量の水分を含んだままの状態で酵素を高分子活性剤で被覆することで、超臨界二酸化炭素中で新たな機能を発現することに成功した。超臨界二酸化炭素中での酵素反応を利用したアミノ酸からのジペプチドの合成を試みたところ、水溶液中での反応に比べ、高い反応率を得ることができた。以上の結果より、界面活性剤被覆酵素は、超臨界二酸化炭素中での生体関連物質の合成に適用可能であることがわかった。 界面活性剤で被覆した遺伝子増幅酵素を用いた超臨界二酸化炭素中での遺伝子増幅反応について検討した。超臨界二酸化炭素雰囲気下でも遺伝子の増幅が可能であることがわかった。また、超臨界二酸化炭素雰囲気下で遺伝子を増幅させるには、添加水溶液のpHを最適化する必要があり、緩衝液の利用が有効であることがわかった。また、電気泳動写真により、超臨界二酸化炭素雰囲気下で増幅した遺伝子を分析したところ、水中での反応に比べ、遺伝子の増幅エラーが減少することがわかった。また、界面活性剤を最適することにより、常圧下における水中での反応に比べ、遺伝子の増幅効率が増加することもわかった。酵素の被覆には、イオン性界面活性に比べ、非イオン性界面活性剤を用いて酵素を被覆した方が、増幅効率が向上することがわかった。また、特に超臨界二酸化炭素に対して親和性を有するフッ素系の界面活性剤の利用が有効であることがわかった。
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