研究概要 |
環境水中の金属イオンのスペシエーションを行なうため,1.キレート抽出の平衡論的解析を用いて河川水およびフミン酸試料中の銅(II)の化学形態を推定した.また,新たな方法として,2.天然配位子の金属錯形成能力を評価することができるストップトフローシステム,3.金属イオンの抽出速度差分離フローシステム,4.インライン電解FI-ESI-MSシステムを開発した. 1.キレート抽出の平衡論的解析を利用して,河川水の銅(II)のスペシエーション及びフミン酸の銅(II)錯形成能力について検討した.その結果,河川水中の銅(II)は共存する配位子と定量的に結合していること,フミン酸は銅(II)と極めて安定な錯体を形成することが判明した. 2.銅(II)錯体の還元反応速度が共存する配位子の錯形成能力により異なることを利用して,バソクプロインを発色試薬に用いたストップトフローシステムを構築し,天然配位子であるフミン酸の金属錯形成能力を測定した.その結果,フミン酸の錯形成能力は分子量の低下とともに増大することが明らかとなった.また,この方法により,植物から抽出した成分の金属錯形成能力を評価したところ,植物から溶出する成分は高い金属錯形成能力を有することが判明した. 3.重金属のスペシエーションを行なうための基礎検討として,亜鉛(II)とカドミウム(II)の抽出速度差分離システムを構築した.ニトリロ三酢酸共存下,ジチゾンによる抽出を試みたところ,亜鉛(II)からカドミウム(II)のみを抽出することができた.また,抽出された錯体種の逆抽出速度差分離を試みたところ,カドミウム(II)のみを選択的に水相に逆抽出できることが判明した.この正逆抽出速度差分離をフローシステムで行なったところ,亜鉛マトリックスからカドミウム(II)を定量的に取り出すことができた. 4.電解カラムフローセルをESI-MSにインライン接続したシステムを構築し,微量金属イオンのスペシエーションの可能性について検討した.河川水に銅(II)と各種アミノポリカルボン酸を添加した試料を用いて測定を行なった結果,電着させる際の電位を制御することで,銅(II)化学種のスペシエーションの可能性が示唆された.
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