前年度の成果を受けて、さらに多項目同時計測素子としての集積型酵素スイッチの創製に向けた研究を行った。 酵素スイッチに期待される種々の特性から、酵素センサと酵素試験紙の両者の長所を兼ね備えた新しい測定デバイスとして使用できると考えられる。そこで酵素スイッチの測定モードについて種々検討した。まず、酵素スイッチの作動電位は自然電位に非常に近いことから、電位を印加せずに基質を添加したときの応答を測定した。その結果、反応時に電位を印加しなくても同等の応答が得られることがわかった。また酵素スイッチの応答が保持されるか、すなわちメモリー機能を有するかを調べた。その結果、フロー測定で基質がなくなっても、約1時間後においてもほぼ同等の応答が得られることがわかった。これらの結果は酵素スイッチが、まず酵素試験紙と同様に測定回路に接続せずに、チップだけで基質と反応させ、その後、酵素スイッチの導電性を電気化学的に測定するという、測定モードとデータ読み出しモードの分離が可能なデバイスであることを示している。この特性は集積型酵素スイッチでも1チャネルの測定装置で測定できることも意味している。 一方、酵素スイッチの集積化についてはさらに集積度を高めるために3次元構造の採用を検討した。2つの金電極を厚膜ホトレジストを介して積層し、上下の電極間にポリアニリン膜を電気化学的に重合し、酵素スイッチを形成した。計9(3×3)組の酵素スイッチを1つのガラス基板上に形成し、うち5組をグルコーススイッチ、4組を乳酸スイッチとした。グルコース、乳酸及び両者の混合溶液(濃度はいずれも100mM)を測定したところ、反応時間10秒で化学的クロストークのない、独立した応答が得られた。 以上のように当初の目的をほぼ達成できる優れた成果を得ることができた。
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