温度感応性高分子は高分子の水和水の脱離によって急激に疎水化されることから、温度感応性高分子であるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)[PNIPAAm]にグルコースと結合することによって、高分子への水和状況が大きく変化する仕組みを導入することを検討した。PNIPAAmに糖との結合能を有するビニルイミダゾールを組込んだ高分子を調製したところ、グルコースに対する感応性は見られなかった。一方、ビニルイミダゾールとともに、アミンを側鎖に持つセグメントを導入した高分子では、グルコースが存在しないときは37℃で疎水化→凝集したのに対し、グルコース0.1%存在下凝集温度は34℃に低下し、より疎水化しやすくなった。中性領域においてはフェニルホウ酸の非解離型とアミンのプロトン付加型が存在し、高分子全体が負に帯電している状態(親水型)と、フェニルホウ酸が酸解離もしくは水酸化物イオン付加した結果、全体の電荷が中和された状態(疎水型)が共存していると考えられる。ここにグルコースを加えると疎水型によりグルコースが結合しやすいために、平衡が疎水型にシフトするものと考えられる。一方、弱アルカリ性においてはまったく逆の傾向が見られたが、その機構については不明である。以上のようにグルコースに感応して親水-疎水性が変換する高分子が調製された。対象としてスクロースやポリサッカロースに対する感応性を調べたところ、これらの分子にはまったく感応せず、グルコースのみに選択的であった。さらに、固体担体への高分子修飾条件を検討したところ、アミノプロピルシリル化したガラス表面に末端にカルボン酸を有する高分子を縮合剤共存下で修飾することができた。しかし、その導入量は親水-疎水変化を流路切り換えや物質保持の制御に結びつけるのに十分ではなく、さらなる高分子修飾法の検討が必要であった。
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