研究概要 |
光合成生物の光捕集器官は色素分子と膜タンパク質複合体から構成されており、本研究はその高次構造解析を目的とし、これを踏まえて光エネルギー伝達などの光化学的機能との関係解明、さらに人工光合成系構築のための光捕獲システムの開発を目指すものである。 平成15年度において^<15>Nと^<13>Cで均一に標識した試料を用いて、多次元NMR測定によりLH1の構造単位であるB820複合体を構成するα、βポリペプチドのすべてのNMRシグナルを帰属することができた。重水素溶媒中における^1H-^<15>N HSQCスペクトルでは、両ポリペプチド共に多くのアミドプロトンのシグナルが10日間経過後も保持されていたことから、これらの膜タンパク質は溶液中においても長期間安定な二次構造を保持していることが示唆された。三次元NOESY-HSQCスペクトルの解析から、βポリペプチドでは約510個、αポリペプチドでは約430個のNOEがそれぞれ観測された。これらのデータを基に構造計算を行い、αとβポリペプチドの立体構造を決定した。両ペプチドとも約30残基の膜間通ヘリックス構造をもつことがわかった。 一方、重水化界面活性剤中におけるB820複合体のサイズを中性子小角散乱(SANS)の解析より調べた。Native及び再構成B820複合体はともに均一なサイズをもち、回転半径R_g=11Å、分子量11,400であることを突き止めた。これはα,βポリペプチドそれぞれ一本ずつと色素二分子の和に相当し、B820複合体はLH1の構成単位であることを裏付けた。これまで長い間論争が続いてきた構成単位のサイズに終止符を打つことになった。また色素を除去したアポポリペプチドでは構造的不均一性が表れ、B820単位構造の安定性は色素分子を介して獲得することを実証した。本研究の結果は光捕集機構の解明だけでなく、X線結晶構造解析を補う手法として結晶化しにくい、または結晶化できない膜タンパク質の立体構造解明に大きく寄与するものと期待できる。 上記の研究に関連した成果の一部は既に国際学術専門誌に掲載されている。(次頁を参照)
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