有機ケイ素化合物はσ共役能を有する興味深い物質である。これはSi価電子の低いイオン化電位や大きな3p軌道に基づいており、Si-Si結合でのσ共役能や芳香族化合物などのπ電子系とのσ-π共役能に基づく、新規な機能の発現に結びつくものと期待される。そこで本研究では新機能を有する分子の設計、合成、物性の詳細な評価を組み合わせて研究を進め、これまでの炭素系化合物の光化学にない新たな機能と物性を有する有機ケイ素化合物を創製し、それを光励起により起こる励起エネルギーや電子、ホールの移動などの過程のメカニズムを解明することを目的に研究した。特に本年度は以下の2点に重きを置いて研究した。 (1)ケイ素鎖芳香環連結化合物での励起エネルギーや電子移動.これまでケイ素鎖(n=1-6)でアントリル基とナフチル基を連結した化合物の光励起で生じた励起エネルギー移動や光誘起電子移動速度を時間分解蛍光法で求め、対応する炭素鎖連結系と比較して著しい高速なエネルギー移動であることを明らかにした。今年度は連結体のコンホメーションについて、連結方向族部分間でのエキシマー形成や分子内環化反応を観測することにより検討を加えた結果、伸びたコンホーメーションを取っていることを明らかにした。(2)オレフィンの構造を液晶による配向やゼオライト中に包摂することで制御することを試みてきたが、今回そのコンホマーの構造が固定したモデル化合物のうちのいくつかについて合成が成功したことから、包摂構造について有用な知見を得ることが出来た。これまでの導電性高分子はポリビニルカルバゾールに代表される飽和炭素鎖中に芳香族化合物が分散する形でデザインされたものか、ポリアセチレンに代表されるπ共役系高分子であった。 本研究の対象物質はケイ素鎖の有する特異な性質から新規な機能を有する発光材料や導電材料となることが期待されているが、本研究で得られた成果は、有機ケイ素化学、光化学、材料化学などの広範な関連科学の基礎的知見としても重要かつ有用であり、新規光デバイスの創製への展開が期待される。
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