本研究では開発した電導性原子間力顕微鏡を用いて金属探針を単一(又は数)分子に接触させ、その電気物性やキャリア注入による発光の特性・効率を分子空間分解能で明らかにし、単一分子レーザー実現の可能性を探ることを目的とした。ミクロな電気物性や光学物性を観測する走査型プローブ顕微鏡を開発し、金基板上に形成させた共役系分子自己組織化膜(SAM)に金属探針を接触させバイアス電圧を印加しナノスケールでの電導メカニズムについて明らかにすると共にその光学物性や構造について明らかにした。はじめにアルカンチオール(絶縁分子)中に孤立させた単一共役系分子(電線分子)構造を形成させ、その電気特性について検討した。デカンチオール(C10)に挿入したターチオフェンSAM(3T1)のSTM像は約5Åの周期を示すアルカンチオールの結晶格子の中に輝点が観測された。この輝点はC10の単独膜で観測されなかったことから孤立した3T1分子であると考えられる。この孤立した共役系分子を電導性AFMで観測した電導像はSTM像と同様に数個の輝点が観測された。STMでは輝点の見かけ上の高さが得られるのに対し、電導性AFMではトンネル電導度の絶対値を得ることができる。3t1とC10の電導度の比較が輝点付近の電流値の断面を測定することにより1個の共役系分子を介する電気抵抗求められる。輝点の電流はバックグラウンドより2桁大きな電流値を示した。またこの電流値は3T1単独膜の電流値にほぼ等しいことが分かった。以上からアルカンチオールに挿入した共役分子系は孤立した分子の電気特性を測ることが可能であり周囲の分子との電導性の違いが容易に計測できることが明らかとなった。
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