研究概要 |
研究目的 がん細胞は血液の供給に乏しいので、熱に弱く43℃で死滅するが、正常細胞は48℃付近まで損傷を受けない。磁力線は体内深部にまで生体組織に損傷を与えることなく浸入し得る。強磁性体は、交流磁場の下に置かれると、磁気ヒステリシス損により発熱する。従って、化学的耐久性に優れた、直径20〜30μmの強磁性セラミック微小球が得られれば、これを血管を介して肝臓がんに送り込んだ後、その部位を交流磁場の下に置くことにより、毛細血管を詰めてがん細胞への栄養補給を断つと同時に、そこからがん細胞のみを効果的に加温して治療することができる。 本研究は、シリカガラス微小球を、鉄イオンを多量に含むフッ化水素酸水溶液中に浸潰し、さらにこれを酸素分圧制御雰囲気下で加熱処理する方法により、マグネタイトのみからなり、しかも化学的耐久性に優れた、直径20〜30μmの強磁性セラミック微小球を合成する方法を追究することを目的とする。 研究成果 直径約12μmのシリカガラス微小球を、マグネタイトを飽和濃度だけ含むフッ化水素酸水溶液中に30℃で24日間浸漬し、さらにこれを70CO_2+30H_2の混合ガス雰囲気中、300〜600℃の種々の温度で1時間加熱処理した。加熱処理前の微小球はβ-FeOOHからなるが、これを400℃以上で加熱処理すると、マグネタイトが析出し始め、加熱処理温度が上昇するにつれてその析出量を増し、600℃でほぼマグネタイトのみからなる、直径20〜30μmの真球状の微小球が得られることが分かった。透過型電子顕微鏡観察によれば、同微小球を構成するマグネタイトの結晶子サイズは約50nmであった。このようにして得られた微小球は、飽和磁化53em・g^<-1>、保磁力156Oeの強磁性を示した。300Oe,100kHzの交流磁場における同微小球の発熱量は、41W・g^<-1>と計算され、これは、従来のマグネタイト含有結晶化ガラスのそれの約4倍であった。
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