研究概要 |
本研究者は有機イリジウム錯体の化学に注目し、その基礎的な性質について検討する中で、Cp^*配位子を有するイリジウム錯体が有機分子間の水素移動反応において極めて高い触媒活性を示すことを見出してきた。本研究では、この水素移動反応を有用な化合物の合成触媒系へ発展させることを目的として、アルコールとアミンの反応によるN-アルキル化反応についてとりあげ、検討した。 最初に、2-アミノフェネチルアルコールおよび3-(2-アミノフェニル)プロパノール等のアミノアルコール類の分子内N-アルキル化について検討した。触媒として[Cp^*IrCl_2]_2と塩基の存在下で反応を行うことにより分子内N-アルキル化が良好に進行し、2-アミノフェネチルアルコールからはインドール(80%)が、3-(2-アミノフェニル)プロパノールからは1,2,3,4-テトラヒドロキノリン(96%)が得られた。アルキル基、アリール基、クロロ基およびアルコキシ基を有する原料を用いても同様の反応が良好に進行した。本反応はイリジウム触媒によるアルコール部位の水素移動型酸化を鍵反応として進行するものであり、合成化学上有用なインドールおよびテトラヒドロキノリン類を段階で触媒的に得られる点に特長があり、副産物としては水が生じるのみであり、環境負荷の小さい触媒系である。 次に、アルコールとアミンの分子間N-アルキル化について検討した。触媒として[Cp^*IrCl_2]_2と塩基の存在下、アニリンとベンジルアルコールとの反応によりベンジルアニリン(88%)が得られた。様々な一級および二級アルコールを用いても反応は良好に進行し、モノアルキル化生成物を選択的に与えた。また本触媒系は他の一級アミンのN-アルキル化に対しても有効であり、一般性は高い。本反応は、過去に知られていたルテニウム触媒を用いた系よりも低い温度で進行し、用いる原料もより一般的に適用可能であり、アミン合成の新しい手法を提供するものといえる。
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