研究概要 |
本研究者は有機イリジウム錯体の化学に注目し、その基礎的な性質について検討する中で、Cp^*配位子を有するイリジウム錯体が有機分子間の水素移動反応において極めて高い触媒活性を示すことを見出してきた。本研究課題では、この水素移動反応を含窒素複素環をはじめとする有用な化合物の合成触媒系へ発展させることを目的として検討した。 最初にアミノアルコール類を原料に用いる分子内環化反応について検討し、[Cp^*IrCl_2]_2触媒を用いたインドール及び1,2,3,4-テトラヒドロキノリン誘導体を合成する反応系の構築に成功した。本反応はイリジウム触媒によるアルコール部位の水素移動型酸化を鍵反応として進行するものである。続いて、本反応をアルコールとアミンの分子間N-アルキル化反応へと発展させた。[Cp^*IrCl_2]_2触媒存在下で、アニリンとベンジルアルコールとの反応によりベンジルアニリンを高収率で得る反応をはじめとして、様々な一級アミンのアルコールによるN-アルキル化が可能な触媒系を開発した。次に、[Cp^*IrCl_2]_2触媒を用いた一級アミンとジオールの反応について検討し、ピロリジン、ピペリジン、アゼパン及びモルホリン等の合成化学的に重要な骨格を一段階の反応で収率良く得られる新しい触媒系の構築に成功した。 また、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン誘導体を簡便に合成する反応として、入手が容易なキノリンの移動水素化反応を検討した。[Cp^*IrCl_2]_2触媒存在下で、水素源として2-プロパノールを用いることによりキノリン類の位置選択的かつ官能基選択的な移動水素化が進行し、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン誘導体を高収率で得ることができた。 これら一連の触媒反応はCp^*イリジウム触媒の高い水素移動能により達成されたものである。
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