1.アルキルフラーレンカチオンの熱力学的安定性の定量的評価 塩化物R-C_<60>-ClのS_N1型ソルボリシス速度の測定およびフラレノールR-C_<60>-OHのイオン化平衡の精密測定により、アルキルフラーレンカチオン(R-C_<60>^+)の安定性の定量的評価を行い、これがt-ブチルカチオンと同等の熱力学的安定性を有することを明らかにした。 2.アルキルフラーレンカチオンの長寿命溶液の調製と固体単離 一般にC_<60>骨格のπ共役系に正電荷をもつカチオンは極めて不安定であり、その単離は容易ではないと考えられて来たが、本研究では塩化物R-C_<60>-Clをジクロロメタン中で銀イオン(AgSbF_6)あるいはルイス酸(SbCl_5)で処理することにより、これまで超強酸溶液の形でしか得られていなかったアルキルC_<60>カチオンの中性安定溶液の調製、およびその塩の固体単離が達成できた。 3.アルキルフラーレンカチオンによるシリカ表面のフラーレン単分子膜による被覆 表面にSiO_2の自然酸化膜をもち再外層が水酸基で覆われたシリコンウエファーをR-C_<60>-Clのジクロロメタン溶液に浸漬することにより、ウエファー表面上へのC_<60>骨格の結合が起こり、単分子層に相当する厚さ10-14Åの有機分子膜が生成することをエリプソメトリーにより確認した。この結果は、R-C_<60>-Clのイオン化により発生した中間体カチオンR-C_<60>^+がSiO_2表面の水酸基と反応し高密度に結合したためと解釈でき、アルキルフラーレンカチオンの高い反応性が、水酸基で覆われた固体表面をC_<60>骨格で被覆するために有効であることが示された。
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