本研究は、フッ素の凝集する機能を種々の分野において注目されているフラーレンに付与させることにより、従来のフッ素化学あるいはフラーレンの化学においてみられた機能から予期できない全く新しい機能の創出を目的とする。具体的には、ナノレベルで構造が制御されたフッ素系分子集合体の構築を行い、ついでこのフッ素系分子集合体をホスト場とし、ゲスト分子としてフラーレンを取り込ませ、構造が制御されたフラーレンの超分子の構築およびその機能の創出を行うこともその目的である。 平成14年度の研究では、フルオロアルキル基が末端に導入されたオリゴマー類の合成を行い、これらオリゴマー類の自己組織化により形成される分子集合体の構造について光散乱法により詳細に検討を行い興味深い知見を得た。次いで、この基礎的な知見をもとに詳細に検討を行ったところ、水に対して溶解性を全く示さないフラーレンがフッ素系分子集合体のホスト場の中に取り込められ、フラーレンが水に可溶化される現象を見いだした。水に可溶化されたフラーレンは興味深いことに蛍光スペクトルが観測され、ある特定のフッ素系分子集合体内に取り込められたフラーレンにおいては、その蛍光強度を著しく高めることを見いだした。これらの知見は、実際、新しいフッ素系蛍光診断薬への応用を強く示唆するものである。 平成15年度の研究では、前年度の研究により得られた研究成果をもとに、フルオロアルキル基含有オリゴマーが形成する分子集合体-フラーレン複合体を汎用の高分子材料であるPMMA(ポリメチルメタクリレート)の表面改質へ展開させた。その結果、実際にナノオーダーで構造が制御されたフラーレンユニットを高分子材料表面に配向させることに成功した。フラーレンユニットが高分子材料表面に配向したPMMA膜においては、裏面に比べその表面においてフラーレンに起因した蛍光強度の高いスペクトルが観測され、さらには導電性も裏面に比べ表面において著しく高まるという極めて興味深い結果が得られた。このような結果はフッ素の機能をナノレベルでフラーレンに組み込ませることに成功させた例であり、今後新しいフッ素系機能牲材料としての展開が大いに期待できる。本研究では、フラーレン以外にゲスト分子としてカーボンナノチューブ(SW-CNT)に注目し、SW-CNTとフッ素系分子集合体との相互作用についても検討を行った。その結果、水および有機溶媒に対し溶解性を示さないSW-CNTがこれら溶媒に可溶化することがわかった。従って、本知見はSW-CNTもフッ素系分子集合体とナノレベルで相互作用することを強く示唆しており、今後新しいフッ素系機能性材料としてフラーレンと同様さらなる研究展開が確信される。
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