交差共役ジエノン構造を持つプロスタグランジン(PG)類縁体NEPPは酸化ストレスによる神経細胞死を抑制する。この活性について、種々の構造修飾体を合成して構造活性相関研究を行うことにより、高活性で毒性の低い化合物NEPP11を創製することに成功した。NEPP11の示す神経保護活性は、in vivoマウス脳虚血モデルに対しても投与濃度依存的に有効であった。また、細胞内発現タンパク質、メッセンジャーRNAの解析を行うことにより、NEPPの作用がストレスタンパク質の一種であるヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の誘導と深く相関していることを明らかにした。さらに、HO-1誘導に関わるNEPPの細胞内標的分子(受容体)を捕獲・同定するため、ビオチン基を導入した分子プローブを設計・合成した。これを活用した親和性標識実験によっていくつかの特異的結合タンパク質を検出することに成功した。また、J型のPG類縁体を合成し、これらがNEPPよりやや弱いものの神経細胞死に対して抑制作用を示すことを見いだした。一方、in vivo脳機能研究に向けて、陽電子放射断層画像撮影法(PET)によるNEPP類の動態解析を行うため、PETトレーサー化を検討した。トレーサーにはポジトロン放射核として寿命の長い76Brを導入することとし、側鎖にブロモフェニル基を有する誘導体の設計・合成を行った。J型PGについても同様に側鎖にブロモフェニル基を組み込んだ分子を合成した。合成したトレーサー候補化合物はいずれも神経細胞死抑制活性を示した。また、ポジトロン核導入の前駆体となるスズ化合物の合成とコールド条件でのブロモ基の導入反応を確立した。一方、転写因子NF-κBの制御キナーゼIKKβに対するNEPPの阻害作用について、種々の誘導体による構造活性相関研究を行い、より高活性な化合物を創製することができた。
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