研究概要 |
目的化合物が、合成経路設計システム(SRDS)の与えた合成経路により得られるかどうかの可能性の検討なしに実験をはじめることは困難である。SRDSを有効に利用するためには、(1)遷移状態データベース(TSDB)を用いて、反応の遷移状態を得ることにより反応経路の有無を調べ、(2)実験化学者との連携により合成法やその実験条件の検討することが必要である。これらを行って始めて、コンピュータ支援による合成経路開発が可能となる。本研究では、4,5-置換フラン-2,3-ジオン誘導体1の経路設計、MO計算および合成実験を行い、コンピュータ支援による合成経路開発の実際についての検討を行った。 酸無水物を用いて環状アルコールを経る経路では、遷移状態が得られた(活性化エネルギーはB3LYP/6-31G^*レベルの計算を用いてH, CH3, Phで9.3、16.2、15.7kcal mol^-1と計算された)。この結果は、TOSPが示した経路を用いて、1の合成が可能であることを示唆している。塩化メチレン中で塩化ベンゾイルとピルビン酸の反応により合成された化合物のフラグメント組成は、最終生成物である1を示唆するものではあったが、得られたNMRの形状が1と一致しなかった。可能性のあるいくつかの化合物について、B3LYP/6-31G^*レベルで構造最適化を行い、GIAO計算によりNMRのケミカルシフトの計算を行い、実際に計測されたNMRのチャートとの比較を行った。その結果から、得られた化合物は反応前駆体であるという結論に達した。現在、この前駆体から出発した反応、ルイス酸を変えた実験を行い、環化反応が進行するかどうかの更なる検討を行っている。
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