平成14年度にはトリロイシン・テトラロイシンを含む両親媒性分子から、ある程度の機械強度と柔軟性を有するフィルムが得られることについてを成果報告した。これらに加え本年度はロイシン数2個の両親媒性分子とロイシン数5個(ペンタロイシン)および6個(ヘキサロイシン)のオリゴロイシン誘導体を用いてフィルム形成能を系統的に調べた。ペンタロイシンとヘキサロイシンを含む分子はクロロホルムをゲル化するがメタノールには不溶である。そこでクロロホルムのゲルにメタノールを加えると、吸引濾過してキセロゲルを得ることができる。このキセロゲルは脆いがカッターナイフで切断できるので、断片を油圧プレスしたところトリロイシンやテトラロイシンを含む両親媒性分子のキャストフィルムよりも機械強度に優れた柔軟なフィルムを得ることができた。脆いキセロゲルが柔軟なフィルムに変化したことは、加圧によって分子配向に何らかの変化が生じたことを意味している。断片を二枚のCaF_2窓材に挟み込み、摺り合わせを繰り返しながらFT-IRスペクトルを測定すると、試料厚は薄くなっていくにもかかわらず、アミドIをはじめとする各吸収帯の吸光度が増大する興味深い結果を得た。ペプチド部分は逆平行β-シートを形成していた。これらの結果はオリゴロイシン誘導体が水素結合してβ-シートを形成し、加圧によって側鎖部分がファスナーのように噛み合うという構造階層性から説明できる。加圧によって原子配列が整う例は金属の鍛造では知られており、高分子化合物が塑性加工できることも周知であるが、低分子量有機化合物での例は知られていなかった。本研究で用いた分子は当然プラスチックのように鋳型成形をはじめとする塑性加工が可能であり、新しい素材になると考えている。
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