本研究の目的は、クモ膜下出血の原因である脳動脈瘤の破裂を抑えるための液体塞栓物質を開発することである。液体塞栓物質前駆体として光反応性基を有する水溶性高分子(PVA)を用い、カテーテルでの注入後、光照射して高分子を不溶化し、塞栓物質物質とする。脳動脈瘤の液体塞栓材料としては、(1)動脈瘤に接着すること、(2)新しい血管膜が形成する2週間接着が継続すること、また(3)カテーテルを通して液体を脳動脈瘤に短時間で運ぶために、液体の粘度が低いことが必要である。そこで、ガラス製の動脈瘤モデルを用い、カテーテルによる注入、生理食塩水を血液流とみなして接着実験を行ってきた。 カテーテルを通して液体を脳動脈瘤に短時間で運ぶためには、液体の粘度は200〜400cpであるが、光反応基(スチリルピリジニウム:SbQ)含量が5%以上、ポリマー濃度が4wt%以上になると粘度が急激に上昇した(平成14年度)。 注入した材料の血流による流出を抑え、接着性を上げるためにはPVAに導入する感光基の濃度を高める必要があるが、感光基濃度を高めるとPVAの水溶性が低下する。そこで、平成15年度では、PVAに感光基とともに水溶性を高めるためのポリエチレングリコール単位(TEG : tri(ethyleneglycol)monomethylether)を導入して検討した。TEGの導入によりポリマーの水溶性は増大し、これまで最高だったSbQ含量は5%を越え、10%のSbQ含量でも水溶性が保たれ、高い光反応性が期待できた。また、微量の食塩を添加してポリマー水溶液の粘度の制御を行った。食塩の添加によりポリマーは凝集するが、生理食塩水で凝集せず溶液が保たれる条件を検索した。本研究の結果、液体塞栓材料として適したものが得られたが、実際の血管への接着性、血液に対する溶解性などの検討のためには動物実験を行う必要があるが、本研究では設備などの制約により行えなかったのは残念である。
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