セルロース誘導体の1種であるセルロース(トリスフェニルカルバメート)(CTC)に関して、溶液中での鎖の詳細な局所構造、溶液中で形成する液晶相、会合体等の高次構造の詳細な特性化、および濃厚溶液の粘度や拡散現象などの動的な物性の分子論的な理解を目的として、以下に述べる項目について研究を進めてきた。 (1)これまでのコンフォメーションエネルギー計算により、セルロース主鎖には2種類のエネルギー安定な内部回転状態があることが知られている。CTCのテトラヒドロフラン(THF)中での固有粘度の温度・分子量依存性を詳細に調べ、折れ曲りみみず鎖モデルを用いて、溶液中でのCTC主鎖のらせん性を吟味した。 (2)セルロース誘導体の濃厚溶液がコレステリック液晶状態になることはすでによく知られている。その液晶相形成機構が、従来の剛直性高分子溶液に対する理論で説明できるかどうかを、CTCのTHF溶液に対する相境界濃度の実験と理論とを比較することにより吟味した。 (3)セルロース誘導体の増粘効果の分子論的に解釈するために、CTCのTHF溶液系に対するゼロずり粘度をCTCの分子量と濃度の関数として詳細に測定し、これまでに剛直性高分子溶液系に適用されてきたファジー円筒理論との比較を行った。 (4)相互拡散係数と自己拡散係数との間の関係については、屈曲性高分子と剛直性高分子とで異なった議論が行われてきた。中間的な剛直性を有するセルロース誘導体についてはどちらの議論が適用できるかを調べる目的で、CTCのTHF溶液について相互拡散係数と自己拡散係数を、それぞれ動的光散乱法とパルス磁場勾配NMR法を用いて測定した。 (5)CTCのTHF溶液は、濃度をあげるとコレステリック液晶状態となるが、さらに高濃度にするとゲル化し、その後コレステリック構造が崩壊した。このゲル化と液晶構造崩壊の機構について、予備的な実験を行った。
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