フッ素系ポリマーであるポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)は結晶変態を有する代表的なポリマーである。このポリマーは現在、Liイオンバッテリーのゲルバインダーとして利用されている。本研究は、このような現状をふまえ、熱力学的により安定なPVdFゲルを作るための条件を検討した。まず、PVdFゲルの生成条件を検討するための1つの手段として高分子/有機溶媒間の相互作用パラメーターχ_<12>をIGC法から見積もり、χ_<12>とPVdFのゲル形成能の関係を検討した。また、PVdF溶液のゲル化過程をin situ IR法で追跡し、ゲル化機構とゲル構造を検討し、以下の結論を得た。 1.χ_<12>パラメーターの値が室温近傍でχ_<12>≫0.5となるヘキサンやキシレンなどのアルカン系やアルケン系の有機溶媒中では固/液分離を起こしゲル化しない。また、χ_<12>≪0.5になるN-メチル-2-ピロリジノンやジメチルアセトアミドなどの有機溶媒中では、1相溶液となりゲル化しない。これらに対し、χ_<12>≒0.5となるシクロヘキサノンなどのケトン類やラクトン類中で熱力学的に安定なゲルを生成する。 2.ゲル化する系であるシクロヘキサノンなどのケトン類中ではPVdF鎖は、TGTG'のコンホメーションを形成して結晶化し、ゲル化する。ラクトン類であるγ-ブチロラクトンやエステル類であるプロピレンカーボネート中では、T_3GT_3G'のコンホメーションを形成して結晶化し、ゲル化する。
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