ポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)をケトンやラクトン類に高温で溶解させた後、室温近傍で冷却すると、溶液中のポリマーは特定のコンホメーションを形成しながら結晶化し、系全体はやがてゾル-ゲル転移を引き起こす。この研究ではPVdFのゲル化現象を、高分子/溶媒間の相互作用パラメーター(Flory-Hugginsのχパラメーター)に着目し、この熱力学的パラメーターの温度依存性を測定することにより、より一般的に検討した。その結果、次の結論が得られた。 1)PVdF/ケトン系やPVdF/ラクトン系のように、χパラメーターの値が0.5近傍となる系では、熱可逆性ゲルへ転移する。 2)PVdF/ヘキサン系やPVdF/m-キシレン系のように、χ>>0.5となるような系では、マクロな固-液分離を引き起こしゲル化しない。 3)PVdF/DMA系、PVdF/NMP系のように、χ<<0.5となるような系では、一相溶液を形成しゲル化しない。 そこで、次にχの値が0.5近傍の値を示すPVdF/ケトン系、PVdF/ラクトン系に着目し、これらの溶媒中でのPVdF鎖のコンホメーション形成をin situ IR法で追跡したところ、次のことが明らかとなった。 a)系の温度低下につれ、χの値が0.5を横切ってわずかに大きくなるようなシクロヘキサノン(ケトン類)を溶媒に用いると、PVdF鎖は繊維周期の短いTGTG'のコンホメーションを形成しながら結晶化し、直ちにゲル化していく。 b)温度低下につれ、χの値が0.5に漸近するようなγ-ブチロラクトンを溶媒に用いると、PVdF鎖は繊維周期の長いTTTGTTTG'のコンホメーションを形成しながら結晶化し、非常にゆっくりゲル化していく。
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