本研究は、超薄膜による分子認識過程を一連の表面プラズモン分光(SPR)法により観測し、分子認識によりつくられるロタキサン超薄膜構造を光制御することを目指したものである。本年度は昨年度完成した表面プラズモン分光装置を用いて、合成した新規化合物の自己組織化膜(SAM)とα-シクロデキストリン(CD)とのポリロタキサン形成について検討した。 まず、11-ウンデカノールチオール(SHC110H)のSAMへα-CD飽和水溶液を加え、そのディップのシフトをSPRで観測すると、1.2nmの膜厚増加が観測された。CD1分子の大きさを考えると、膜表面へのCDの吸着によって膜厚が増加したと考えられる。次にヘキサエチレングリコール-アルカンチオール(PEG6)とSHC110Hとの1:9の混合SAMへα-CD飽和水溶液を加えると、膜厚は全く増加しなった。運動性の高いヘキサエチレングリコール鎖によってCDの吸着が完全に抑制されていると考えられる。また、ヘキサエチレングリコールのように短い鎖に対してはロタキサンの形成も難しいと推測される。さらに、末端にメチルアゾベンゼンが修飾されたヘキサエチレングリコール-アルカンチオール(MeAZOPEG6)とSHC110Hとの1:9の混合SAMを調製した。これにα-CD飽和水溶液を加えると、膜厚増加は約2.2nmと評価された。ヘキサエチレングリコール鎖がCDとのプソイドポリロタキサン構造を形成し、鎖を伸張して膜厚を増加させたと考えられる。PEG6では吸着しなかったCDがMeAZOPEG6ではポリロタキサンを形成したのは、末端に修飾されたメチルアゾベンゼンのせいだと考えられる。アゾベンゼンはα-CDと包接化合物を形成することが知られており、このホストーゲスト反応がMeAZOPEG6でロタキサンを形成するトリガーになっていると思われる。また、MeAZOPEG6-SHC110Hの1:9膜に紫外光を照射すると、約0.2nmの膜厚減少が観測された。これは末端のアゾベンゼンがトランス体からシス体に光異性化するためであろう。光照射下でα-CD飽和水溶液を加えると、膜厚増加量は1.4nmであり、未照射の膜より小さかった。この小さな増加量はCDの吸着によるものと考えられる。これにより、光照射によってロタキサン超薄膜の形成の制御に成功したといえる。
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