スギはわが国固有、最大の森林資源であり、縄文時代以来、建築材、日用品材、家屋の防風防雪材、並木に見られる景観材あるいは寺社の象徴的な植物として栽植されてきた。そして、戦後の荒廃した国土、木材不足を背景に国家をあげて東北地方から九州までスギの植林が推進された。以後、50〜60年経過し、全国各地の広大なスギ人工林が繁殖最盛期になり、膨大の量の花粉を飛散させている。他の環境要因や人体の要因との相互作用も加わり、多くの国民がスギ花粉症に悩まされている。 スギ花粉症に対するひとつの対応として、遺伝的に花粉の出来ない、いわゆる雄性不稔スギの開発が提案されている。10年ほど前、富山市で発見された雄性不稔スギが核の一劣性遺伝子によって、支配されていることを明らかにした研究代表者は共同研究者と継続して、1)この雄性不稔遺伝子の利用、2)他の雄性不稔株の検索と発見、3)花粉症を引き起こす花粉のアレルゲンの少ない、あるいはアレルゲンを持たないスギ株の探索を目指している。 本年度は昨年度に続き、上記2)と3)を、さらに花粉稔性と花粉当たりアレルゲン量の年次変動を吟味するため、2年間同一株の比較を行った。その結果、全国各地から集められ本学で系統保存されている163クローン、岐阜県白鳥林木育種事業地の精英樹38系統、さらに岐阜大学近傍の実生無選抜84個体、計285個体(系統)の中には有効な低稔性、低アレルゲン株は発見されなかった。このこと及び初年度の結果から、実生選抜法が有効であろうことが示唆された。 花粉稔性とアレルゲン量の間には明確な相関が見出せなかった。また、花粉稔性は年次変動が少ないが、アレルゲン量は2年間の測定値に明確な相関関係を見出せなかった。微妙な測定方法によるのか、最終年度の花粉の保存状態が室温であったためか今後の検討と改良の必要性を指摘できた。
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