研究概要 |
感染特異的(PR)タンパク質の一つ,PR-3に分類されるキチナーゼは,細菌類細胞壁の主要な構成要素であるキチンを分解する酵素であり,生体防御機構の中での主要な役割を担っている.イネにおいては,種々の品種に由来する25種類ものキチナーゼ配列が報告されているが,キチナーゼ遺伝子の育種的利用価値を考察するためには,種々のアイソザイムの作用特性を比較検討しておくことが重要である.昨年度の本研究の結果,25種類のキチナーゼ配列は,Cht1〜Cht12の12座のいずれかのアレルであることが明らかになり,これによって従来発現が確認されていた全てのイネキチナーゼ遺伝子座の同定を完了することができた.また,正常個体における各遺伝子の発現特性はいくつかのパターンに分類しうること,および,発現強度の品種間変異が存在することが示唆された.さらに,活性のある組換えキチナーゼが得られる組換え体キチナーゼ精製に関する系が確立された. 昨年度の結果を踏まえ,本年度は,各遺伝子座がコードするキチナーゼアイソザイム間の酵素活性,抗菌活性およびエリシター処理による転写活性の特性比較を試みた.Cht1,Cht4毎およびCht5遺伝子に関する組換え体キチナーゼタンパク質の酵素特性および抗菌特性を解析した結果,CHT4とCHT5はCHT1に比べてpHの影響を受けやすいこと,および,CHT4はCHT1やCHT5に比べて低温による活性の低下が緩慢であることが明らかになった.また,T.virideに対する抗菌活性の解析から,菌の病原性,非病原性の違いによって抗菌作用が異なることなどが判明した.一方,各遺伝子の発現特性の解析から,12座の遺伝子は,感染特異的に誘導されるもの,時期特異的,組織特異的に発現がプログラムされているものおよび両者の特性を併せ持つものが存在することが明らかになった.
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