本研究は、水ストレスがイネの生育に及ぼす影響を、気孔と土壌水分環境の非破壊計測から評価し、干ばつ抵抗性の品種間差異ならびに施肥間差異を定量的に明らかにしようとするものである。圃場にイネを栽培し、品種ならびに施肥の異なる区を設けて、ビニルハウス内で灌水を停止して水ストレス処理を与えた。本年度は品種間差異を中心とし、近年西アフリカで育成された、アフリカイネとアジアイネの交雑種であるネリカ6品種、ネリカ親のアフリカイネ、ネリカ親を含むアジアイネ7品種の計14品種のイネと雑穀2種(キビとアワ)を干ばつ条件下で栽培し、生理反応についての測定を行った。気孔反応として、ポロメータにより気孔コンダクタンスを測定し、同時に吸水特性として、TDR土壌水分計測により、深さ60cmまでの深さ別土壌水分を20cmごとに測定した。ネリカの乾物重と収量には品種間で差がみられたが、干ばつ条件下で他のイネ品種よりも高い生長を示す品種もみられた。すべての品種を込みにして、気孔コンダクタンスと乾物重との間には相関関係が認められ、乾燥条件下において生長の高いイネ品種は、気孔コンダクタンスが高かった。高い生長を示したアジアイネ品種では、深層土壌まで土壌含水率が低い傾向がみられたが、水分吸収が高いためと考えられ、アジアイネの土壌含水率と乾物重との間には品種間で負の相関関係が認められた。ネリカの品種間では両者に相関関係はみられず、乾物重が高い品種では水利用効率が高く、多くの水分を吸収しないため、土壌含水率が高く保たれるのではないかと考えられた。キビとアワはC_4植物のため、少ない水分で高い生育を示した。以上より、アジアイネの干ばつ抵抗性品種は、多くの土壌水分を吸収することにより高い生育を示したのに対し、ネリカの中には少ない水分で高い収量性を示す品種がみられ、乾燥地において長期的に栽培するのに適しているものと考えられる。
|