糖は細胞増殖やデンプン合成のための材料やエネルギー源として利用されるだけでなく、細胞増殖やデンプン合成を進めるシグナル分子としての働きが注目されている。ソラマメでは糖が種子形成における胚の分化の方向を決定し、ショ糖に対してヘキソースの割合が高いと胚細胞は増殖する方向へ進み、ショ糖の割合が高いと胚細胞は貯蔵細胞へ分化することが報告されている。細胞壁結合型インベルターゼはショ糖を分解してヘキソースを生成する反応を触媒する酵素である。本研究ではサツマイモの塊根形成における細胞壁結合型インベルターゼの役割を明らかにするため遺伝子の発現様式を検討した。 サツマイモの塊根より細胞壁結合型インベルターゼのcDMAを単離し、IbCIN1と名付けた。IbCIN1遺伝子の器官別の発現は地下部の細根、塊根及びいも根でのみ認められた。また、IbCIN1遺伝子の発現レベルは塊根形成にともなって著しく低下した。次に、in situハイブリダイゼーション法により塊根内でのIbCIN1遺伝子発現の組織、細胞分布を検討したところ、主にコルク皮層の細胞で遺伝子が発現されていた。また、細胞分裂の活発な第一次形成層と貯蔵細胞である師部柔細胞及び木部柔細胞との間でIbCIN1遺伝子の発現に大きな違いは認められなかった。さらに、塊根形成能力の優れたサツマイモ品種であるコガネセンガンと塊根形成能力の劣る中国25号についてIbCIN1遺伝子の発現レベルを比較したところ中国25号と比べてコガネセンガンで高かった。 以上の結果より、IbCIN1遺伝子はコルク皮層の形成に関わっており、塊根形成能力に重要さあることが示唆された。
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