本研究は温度感受性雄性不稔系統であるT29を交配母本に用い、日本型品種およびインド型品種を花粉親に用いてF1雑種を作出して、その光合成形質および農業形質におけるヘテロシスについて検討することによりF1雑種利用に有効な知見を提供する目的で実験を実施した。交配母本に使用したT29は不稔系統であるために、ヘテロシス程度については主として花粉親と比較して論じた。結果は以下の通りである。 TGMS T29系統は、出穂前15-11から24.1℃かそれ以上の温度に遭遇すると不稔になった。沖縄では、6月16日から11月7日の期間は気温が24.1℃以上であったために花粉および種子ともに完全不稔になった。このことは沖縄ではこの期間にT29系統が出穂前15-11に当たるように栽培すれば、この系統を交配母本にしたF1雑種の大量採種が可能であることを示唆している。気温が20-35℃の範囲においてはT29系統由来F1雑種の光合成能力(CER)は両親の中で光合成能力の高い親よりは低かった。これとは反対に、40℃では蒸散が高くなるに従って気孔伝導度が大きくなりF1雑種はCERで花粉親および中親を凌ぐヘテロシスを発現した。また、F1雑種ではNon-photochemical quenchingが高かければ高いほどCERも高くなった。 インド型および日本型の栽培品種とT29系統との交配で作成したF1雑種の生理的形質における雑種強勢現象を明らかにするために、分けつ最盛期、出穂期および湖熟期において調査を実施した。その結果、ほとんどのF1雑種のCERは全ての生育期間において花粉親より低くなっていた。 以上のように本研究TGMS系統とインド型および日本型品種との交配で作出したF1雑種の光合成形質および農業的形質の特性を明らかにしたもので、F1雑種利用に新しい知見を提供したものである。
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