研究概要 |
1.葯培養によるカルス誘導および子球再生のための培養法について 1)植物成長調節物質の検討 昨年度の研究結果に基づき,0,1,5mg/lのオーキシン(picloram,2,4-D)と0,1,5mg/lのサイトカイニン(BA, TDZ)を組合わせた計13種類のMS培地を用意し,一核小胞子ステージの'カサブランカ'の葯を培養した.5mg/l picloramと1mg/l TDZや5mg/l picloramと5mg/l BAの組み合わせのみにカルスが6.7%の割合で誘導され,1mg/lよりも5mg/l picloramのほうがカルス誘導に有効であった. 2)親植物体の栽培条件の影響 'エンチャントメント'の葯培養では自然条件下での栽培した材料よりも促成栽培のほうがカルス誘導率が高かったという結果を踏まえ,5mg/l picloramと5mg/l BAを添加したMS培地を用い,親植物体の栽培条件が'カサブランカ'の葯培養に及ぼす影響を調査した.自然条件下での栽培した材料ではカルス誘導率が6.7%,促成栽培の材料では3.3%であり,両者の間には有意な差異が見られなかった. 3)培養容器の影響 'エンチャントメント'の葯を100mlの三角フラスコと円錐形広口フラスコを用い,培養しカルス形成を調査した.カルス誘導率は三角フラスコが30%,円錐形広口フラスコが53.3%であり,後者でよかったが,その理由は不明であった. 2.ウイルス局在性の調査について 1)免疫組織化学染色法のための切片法の改善 昨年の実験では,ポリエチレングリコール(PEG)包埋による凍結切片は崩れやすく,よい切片の作成が困難であった.今年はPEGや普通のスライドガラスの代わりに,ポリエステルワックス(融点37℃)と剥離防止用スライドガラスを用いた結果,室温(約20℃)下での切片作成ができるようになり,操作が容易になった. 2)培養葯およびカルス内のウイルスの局在性 ウイルスの局在を調べるために,培養中の'エンチャントメント'の葯と形成したカルスを用い,免疫組織染色法によるLSVおよびCMVの検出を行った.培養開始時とカルス形成時(培養後90日), LSVは葯の維管束付近にのみ局在していることが観察された.また,ウイルス抗原が見られない葯壁部分から粒状カルスが誘導され,多数のウイルスフリーカルスが観察された.しかし,わずかにウイルスの局在がみられるカルスも観察された.増殖時のカルスには,ウイルスは観察されず,ウイルスフリーの粒状カルスからウイルスフリーのカルスが増殖していることが観察された.CMVにおいても同様の結果が得られた.これらの結果から,ウイルスの分布が見られなかった葯壁部分からカルスが誘導されているためウイルスフリーになる可能性が高いということが示唆された.さらに,カルス増殖の過程でウイルスフリーカルスが多数生産されるため,カルス増殖の期間を長くすることによりウイルスフリー再生植物体の割合も高めることが可能であろう.
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