研究概要 |
これまでに行った,ニホンナシ品種の自家不和合性の強さとS-RNase含量との相関に関する研究成果を,Acta Hort.(2002)およびSci.Hort.(2002)に公表した.これらの結果は,ニホンナシの自家不和合性の強さの品種間差異が,花柱内のS-RNase濃度の品種間差異に依存していることを強く示唆していることから,S_2-RNase遺伝子の定量的RT-PCRを行い,不和合性の強さの品種間差がS-RNase遺伝子発現の品種間差に支配されるものか否かを検討した。その結果,S_2-RNase量とその遺伝子の発現量の間には正の相関(r=0.983)があった.しかし,S_4-RNaseについて同様な実験を行ったところ,相関は認められなかった(r=0.022).この原因は不明であるが,S-RNaseタンパク質の寿命がそれぞれのS-RNaseによって異なること,S-RNase量は遺伝子発現量とその後のタンパク合成の両方で規定されること,などが示唆された. S_4-RNaseペプチド配列の一部を使ってウサギに対する抗体を作成し,論争中であった'おさ二十世紀'にS_4-RNaseが存在するか否かについて,明らかに存在することを発表した.また,S-RNaseの花柱内の分布に明らかな品種間差があることを認め,現在,花柱内の花粉管伸長の品種間差との関係を検討中である. in vitroでS-RNaseと培養した不和合花粉管伸長は,和合のものより明らかに強い伸長抑制を受けた.S-RNase遺伝子と高い相同性をもつRNaseT_2や,RNaseT_1およびRNaseAは,不和合花粉に村するS-RNaseほど強い生物活性を示さなかった.また,各種RNase処理した花粉管中のRNA含量を比較すると,不和合花粉管中で最も強く分解されたことから,S-RNaseは不和合花粉管に細胞毒として作用して花粉管伸長を抑制し,また,S-RNaseは不和合反応に特異的な機能を果たす分子であることが示された. S-RNase処理した不和合花粉管内におけるエネルギー代謝系酵素の活性を調査した.解糖系酵素であるグリセロアルデヒド3-P脱水素酵素とTCA回路のメンバーであるイソクエン酸脱水素酵素は,S-RNaseによる明らかな活性抑制が見られた.ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ活性は,S-RNaseによってわずかに抑制された.一方,花粉の糖代謝に重要な役割を果たすとされる酸性インベルターゼと中性インベルターゼは,S-RNaseによって明らかに活性が抑制された.これらの結果より,S-RNaseによる不和合花粉管伸長抑制は,花粉発芽に伴って新規合成される一連の酵素タンパク質の合成阻害によるものと推察した.
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