研究概要 |
かって森林は植生遷移の経過を経て極相に達し安定すると考えられていたが,最近では,攪乱による変化と更新を部分的に繰り返しており、それゆえ攪乱の存在が生物の多様性の維持に重要であるとのダイナミックな見方にかわりつつある。1966年以後継続して長期調査されている水俣照葉樹林において台風によって、根返り、幹折れが発生した。台風による攪乱後ほぼ10年を経過した時点(2002年)での状況を調査し、林床での稚樹個体群の更新を台風による上層の森林現存量の変化すなわち林冠破壊の程度や光条件と関連して解析した。幹直径>5cmの大径木の現存量は,調査plot1,plot2,plot3でそれぞれ220,320,330[t/ha]であった。台風直前(1991)と比較するとそれぞれ55%,70%,85%に激減し,林床の光条件は相当改善されたと判断できた。plot1で32カ所,plot2で7カ所,plot3では6カ所の根返りを確認し形状の測定を行い根返り木の幹直径と根返りマウンドの大きさの関連を検討した。小サイズの樹木のマウンドはいずれも小さいが,大サイズの樹木のマウンドは大小様々であった。台風以後の中径木(胸高直径≧1.0cm)および小径木(地上30cmでの幹直径≧0.5cm)の幹直径の成長率の全個体平均値は、0.04以上[1/year]であった。台風による攪乱(1991年)以前の0.02以下[1/year]より増加し,上層にギャップが形成され林床が明るくなった効果と考えられる。中径木および小径木の成長率は、その近傍100m^2毎の大径木の現存量と相反する関係があり、攪乱が林床での植物の成長と種多様性の回復に効果を及ぼしていることが明らかになった。林床における光量の測定値は極めて変動が大きい。今後、光量とその変動の総合方法を確立して、近傍における小径木の成長率との関係を明らかにする。
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