約90年以上の期間にわたって植生遷移にゆだねられてきたコジイを優占種とする照葉樹において、台風による根返りが多数発生した。根返り発生後10〜12年を経過した時点での根返りおよびその周辺での植生および林床樹木サイズを調査測定し、根返りが照葉樹林の林床に与えた影響を把握した。あわせて、根返り発生以前から行われている長期継続調査資料との比較によって森林の動態に及ぼす台風による大規模な攪乱の影響および効果について考察した。 44ケ所の根返りを測定した。過去の成長記録をもつ36個体の根返り樹木のうち21個体は、根返り発生後10年以上経過した現時点で成長を続けている。根返りのマウンド部分を、マウンド前部、トップ、ピット、ピット淵の微地形に区分しそれぞれに出現した植物種を比較した。コジイ、ヒサカキ、フユイチゴ、チヂミザサ、アカメガシワなど43種が出現した。微地形による差は明らかではなく、森林に攪乱が生じたときに埋土種子から発生するとされているカラスザンショウやアカメガシワなど先駆植物は、いずれも根元30cmにおける幹直径が0.5cm以下で、将来的にも低木層あるいはそれ以上の階層へは達しえないと思われる。いっぽう、根返り周辺に存在した前生稚樹の中には、幹直径の相対成長率が0.2/year以上の個体もあり、ギャップ形成以前の0.02/yearと比較して、林冠ギャップが形成された場合に林内に待機していた稚樹の内あるものの成長は促進される。成長が促進された個体とそれ以外について、上層の樹幹天空率を測定し比較したが、天空率が極めて局所的な変動するため、成長の差を天空率からは説明できなかった。根返りの発生は、根返り部分そのものではなく、その周辺の中径木が将来的に林冠木となる可能性を与えるという側面で、森林の更新過程を加速する効果を及ぼすことが明らかになった。
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