コジイを優占種とする照葉樹林が、台風による大規模攪乱をうけ倒木や根返りが発生し、林冠が疎開した状態となった。そこで、大径木(胸高直径4.5cm以上)および中径木(同1.0cm以上)の胸高直径を測定し、攪乱発生以前から行われている長期継続調査の資料と比較し、個体群の予測モデルを作成することで、台風による攪乱が森林の植生遷移と動態に及ぼす影響および効果を検討した。 台風による攪乱をうける以前にはコジイが圧倒的に大きく、また、倒壊あるいは根返りした樹木のほとんどはコジイであったが、攪乱後も相対的にはコジイが優占種であった。コジイ、タブノキ、カシ属5種およびイスノキの大径木について、直径階別に直径成長率を比較した。その結果、攪乱の前後でコジイとタブノキの成長率に差は認められなかった。いっぽう、カシ属およびイスノキの成長率は、攪乱による林冠の疎開後に著しく高くなったが、コジイ、タブノキの成長率とほぼ同じであった。樹種別、直径階別、当該樹木に隣接しかつその樹木よりも大きな樹木の胸高断面積階別での直径相対成長率と枯死率にもとづいて、調査プロットに含まれる全ての樹木個体の20年後までの成長予測を行った。その結果、2024年には、カシ属樹木の胸高断面積が最大になると予想された。さらに時間の経過後はイスノキが最大になると予想された。ただし、20年後の優占種を左右するのは、攪乱によって除去された優占種コジイの除去量と攪乱時に損傷を受けずに残存した樹木の個体群構成である。台風による攪乱によって林冠上層を構成する樹種が結果として選択的に除去されることで、樹種の転換が早められることが明らかになった。また、攪乱発生時に存在した中径木以下の樹木の成長率は、一時的には高くなるが、短期間で上層が再び閉じるために、中径木が将来林冠まで達する確率は極めて低いことが明らかになった。
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