研究概要 |
1997年、米国カリフォルニア州サクラメントの水田地帯において、作用機構の異なる4種の除草剤に対して抵抗性を発現するタイヌビエ(Echinochola oryzicola Vasing.)が発見された(Fischer et al.,1999)。我々は、これらの水田由来の抵抗性生物型が形態およびAFLP fingerprintsにおいて極めて類似していることから1変異個体由来である可能性を指摘した(Tsuji et al.,2003)。一般に、雑草集団における除草剤抵抗性の発現は、集団内で優占していた感受性個体が除草剤連用によって淘汰され、極めて小さい頻度で存在していた適応度の劣る抵抗性変異個体が顕在化する集団遺伝学的過程であると考えられる(Harper,1956;Jasieniuk et al.,1996)。本年度の研究では、抵抗性(R)と感受性(S)生物型の適応度を比較するために、代表的各1系統を水田の系統内競争区、イネ混植区、無競争区で栽植して、これら系統の生育と種子(小穂)生産量を比較した。 草丈の伸長は、生育初期にS系統の方が大きい傾向がみられたが、系統間、競争区間でほとんど差異がなかった。無競争区のS系統の地上部乾物重は、598g/株でR系統のほぼ2倍であった。このR, S系統間差は、競争区間にも顕著に認められ、つねにR系統が小さかった。これら地上部乾物重と同様なR, S系統間差が穂長と稔実種子数にも認められた。すなわち、無競争区のS系統が生産した稔実種子数34,700粒/株でR系統のほぼ2倍であり、どの競争区においてもR系統はS系統より有意に少ない稔実種子を生産した。 以上、この実験は多除草剤抵抗性タイヌビエが出現したサクラメントと環境条件の異なる水田で行われたことに留意しなければならないが、S系統と比較してR系統の生産する稔実種子数が有意に少ないことから適応度が劣ること示唆された。現在、これらの生産された種子を埋土して、越冬状態を調べている。
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