研究概要 |
Steinernematidae科及びHeterorhabditidae科の昆虫病原性線虫は、各種昆虫に対して高い殺虫力と増殖力をもつが、その棲息環境である土壌中の棲息密度は高くない.その原因は、宿主昆虫への侵入力をもつ感染態3期幼虫(IJ)の自然環境中での生存と、昆虫死体内での発育、増殖、IJ生産が、物理的・化学的要因に加えて、生物的要因により大きく影響されることである.平成15年度の研究では、生物的要因についてさらに解析を進め、下記の知見を得た. 1 線虫が感染した昆虫死体に対する土壌棲息性昆虫の摂食性を調べた結果、土壌生態系の主要構成生物であるアリ(トビイロシワアリ、アズマオオズアリ)の平均摂食率は感染線虫の種類で異なり、S.monticolumで約5%、H.inidicaで約38%、S.carpocapsaeで約70%であった. 2 昆虫死体内でのIJ生産に及ぼす昆虫死体損傷の影響をモデル実験で解析した結果、Steinernema属に比べてHeterorhabditis属で損傷の影響は大きく、線虫感染後の損傷時期が早いほど影響は大であった. 3 昆虫死体内でのIJ生産は、土壌メソファウナ(ダニ類、自活性線虫、等)との競合により阻害された. 4 3種昆虫病原性線虫(H.bacteriophora, S.glaeri, S.carpocapsae)の感染性は、昆虫死体から遊出したIJ(N-IJ)に比べて卵巣内幼虫発育を経て生産されたIJ(E-IJ)の方が低かった.また、E-IJの感染力は、IJを産出した雌成虫の世代に異なり、大型の第1世代雌成虫に比べて、小型の第2世代・第3世代雌成虫で低下した. 5 昆虫死体に感染後の線虫の発育、増殖及び感染力は、E-IJの方がN-IJより低く、病原性の低下程度は腸内腔内の保持細菌数と関連していた.しかし、E-IJを感染させた後に昆虫死体内で再生産されたIJの感染力と細菌保持数はN-IJのレベルまで回復した. 6 昆虫病原性線虫の感染、発育、増殖、IJ生産に深く関る共生細菌の役割を解析するため、トランスポゾンTn-10を挿入した共生細菌と無菌化した線虫を共存させて培養した結果、昆虫死体の蛍光発色が異なるP.luminiscensの突然変異株が得られた. 7 日本産Heterorhabditis属線虫2種9系統と共生細菌(P.luminsescens)を共存培養した結果、同種線虫内で細菌との親和性に差異が認められた.
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