研究概要 |
Steinernema属およびHeterorhabditis属昆虫病原性線虫の生存戦略を明らかにすることを目的に、(1)感染態幼虫(IJ)の卵巣内幼虫発育(Endotokia matricida)、(2)昆虫死体をめぐる資源競合、(3)乾燥耐性に焦点を絞ってフィールド及び室内試験を行い、以下の知見を得た。 A.卵巣内幼虫発育 1.3種昆虫病原性線虫(H.bacteriophora, S.glaseri, S.carpocapsae)の感染性は、昆虫死体から遊出したIJ(N-IJ)に比べて卵巣内幼虫発育を経て生産されたIJ(E-IJ)の方が低かった。E-IJの感染力は、大型の第1世代雌成虫に比べて、小型の第2世代・第3世代雌成虫が生産したIJで低下した。 2.線虫の発育、増殖及び感染力は、E-IJの方がN-IJより低く、病原性の低下程度は、腸内腔内の保持細菌数と関連した。E-IJ感染後に昆虫死体内で再生産されたIJの感染力と細菌保持数は、N-IJのレベルまで回復した。 3.日本産Heterorhabditis属線虫2種9系統の共生細菌(P.luminescens)を共存培養した結果、同種線虫内で、細菌との親和性に差異が認められた。昆虫病原性線虫の感染、発育、増殖、IJ生産に深く関わる共生細菌の役割を解析するため、トランスポゾンTn-10を挿入した共生細菌と無菌化した線虫を共存させて培養した結界、昆虫死体の蛍光発色が異なるP.liminescensの突然変異株が得られた。 B.資源競合 1.土壌無脊椎動物は、昆虫死体に対して、異なる誘引性を示した。 2.アリ(トビイロシワアリ、アズマオオズアリ)は、線虫感染の有無に関わらず、昆虫死体を摂食した。摂食率は、線虫の種類で異なり、S.monnticolumで約5%、H.inidcaで約38%、S.carpocapsaeで約70%であった。 3.オサムシは、線虫感染死体を忌避し、絶食させた後でも忌避した。 4.昆虫死体内でのIJ生産は、土壌メソファウナ(ダニ類、自活性線虫、等)との競合により阻害された。 C.乾燥耐性 1.乾燥耐性獲得の経緯を行動学的に評価するシステムを確立し、昆虫病原性線虫の乾燥耐性評価への導入を可能にした。
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