いくつかの植物病原細菌では、植物体内でtype III分泌機構を介して植物との相互作用に関与する種々の病原性因子、あるいは抵抗性誘導因子を分泌することが報告されている。しかし、イネの重要病原細菌である白葉枯病菌に関してはこれらの因子についての知見がほとんど得られていない。申請者は、type III分泌機構の形成に関与するhrp遺伝子群の発現をin vitroにおいて可能にする培地XOM2の作成に成功していた。そこで、本研究では本培地を用いることにより、type III分泌機構に依存して分泌されるタンパク質の単離・同定を試みた。白葉枯病菌野生株およびhrp変異株をXOM2で培養後、培養ろ液を濃縮し、電気泳動することによって、hrp依存的に分泌される数種のタンパク質を検出した。これらのうち3種についてアミノ酸シークエンスを決定することにより同定を行った。その結果、これらはhrpE、hrpFおよびhpa1の翻訳産物であることがわかった。これら3種の遺伝子について、それぞれ変異株を作出し、その病原性への関与を調べたところ、hrpEおよびhrpF変異株は宿主イネへの病原性を完全に失っており、また、非宿主であるトマトへの過敏感反応誘導能も失っていることがわかった。一方、hpa1変異株については、イネへの病原性の低下がみられたが、それを完全には失っておらず、また、トマトへの過敏感反応誘導については野生株と差異が無かった。以上のことからhrpEおよびhrpFはイネへの病原性とトマトへの過敏感反応誘導に必須の遺伝子であること、またhpa1はイネへの病原性の強化に関与する遺伝子であることがわかった。今後これらの遺伝子産物についてその機能解析を行うことにより、イネと本菌との相互作用におけるこれらの産物の役割について明らかにする予定である。
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