水田および湿地における物理・物理化学的環境自動計測システムの開発について、14年度ではCO_2ガスの動態を計測するシステムを開発した。このシステムにより、15年度では水田湛水層およびそれに接する大気中のCO_2ガスの動態を計測し、水田における特徴あるCO_2ガスの動態を把握することができた。とくに、日中、水田湛水層のアルカリ化によってCO_2ガスが吸収され、夜間は逆に酸性化とともにCO_2ガスが大気中に放出されるという現象は、はじめて確認されたものである。これらの結果から言える最大の成果は、水田湛水層、とりわけ土壌表層と湛水層の境界に生息する光合成細菌の果たしている役割の重要さである。すなわち、光合成の結果生じた酸素は、水田湛水層の対流によって速やかに湛水層全体に広がり、水田における豊かな生態系が形成される基幹となっている。この結果は、これからの水田の生態系をより発展させるための鍵が、水田湛水層における光合成細菌による光合成機能をより発展させることができるかどうかにかかっていることを示している。また、そのためのモニタリングの重要性は今後ますます大きくなっていくであろう。 さらに、冷害回避のために行われている深水灌漑のエネルギー収支に及ぼす影響を明らかにする目的で、湛水深を変えたライシメーターを用いて、日射、湿度、水温、地温、蒸発量などを経時的に計測し、そのデータに基づき物理的な解析を行った。この結果、深水灌漑は日照不足の場合、内部エネルギーの放出量が吸収量を上回り、エネルギー的にはマイナスの効果となることを明らかにした。 この他、水田土壌中の酸化還元電位(ORP)や溶存酸素(DO)の動態、水温、地温などを総合的に計測できるようになった。この結果、水田に関する物理・物理化学的環境の総合的な自動計測が可能となり、水田環境が時々刻々把握できるようになった。 今回のシステムをさらに改良していくことで、水田農業の持続的発展と生態系の保全に寄与できると考えている。
|