キチンは結晶性で強固な不溶性多糖であり、結晶性キチン分解メカニズムの解明はキチナーゼにとってきわめて本質的な課題である。我々はBacillus circulans WL-12のキチナーゼA1とSerratia marcescensのキチナーゼAをモデルとして、この課題に取り組んでいる。キチナーゼA1は活性ドメイン、2つのFnIIIドメイン、キチン吸着ドメインの3種類4つのドメインから構成され、一方キチナーゼAは活性ドメインとN-末端ドメインから構成されている。この2つのキチナーゼの活性ドメインは互いによく似ているが、他のドメインは全く異なっている。これまでに、これらのキチナーゼの分子表面に露出した芳香族アミノ酸残基が結晶性キチン分解に必須であることを明らかにし、細菌キチナーゼによる結晶性キチン分解メカニズムのモデルを提案した。また、昨年度は深い活性クレフト内部の芳香族アミノ酸残基の結晶性キチン分解における重要性を明らかにした。 今年度は1)B.circulansキチナーゼA1の全体構造の解析、2)B.circulansキチナーゼA1キチン吸着ドメインのキチン吸着機構の解明、3)S.marcescenceキチナーゼB表面に露出した芳香族アミノ酸残基の機能のさらに詳細な解析、の3点に重点をおいて研究を進めた。 その結果、1)X線小角散乱によってB.circulansキチナーゼA1の溶液中の全体構造を予測することが出来た。2)吸着ドメインのTrp687がキチン吸着に関わる最も重要な残基であることを示すことが出来た。また、ループの一部の構造変化を伴ってキチンに吸着する可能性が示唆された。3)S.marcescenceキチナーゼB表面に露出した2つのTyrと2つのTrpが結晶性キチンへの吸着と分解の両方に重要であること、TyrよりもTrp残基の方が吸着活性への貢献度が高いことがわかった。
|