研究概要 |
結晶性キチン分解メカニズムの解明はキチナーゼ研究にとってきわめて本質的な課題である。本研究ではBacillus circulans WL-12のキチナーゼA1(ChiA1)とSerratia marcescens 2170のキチナーゼA・B(ChiA, ChiB)の立体構造を基礎として、このメカニズムの解明を試み以下のような画期的な成果をあげることができた。 1)B.circulans ChiA1活性クレフト内部に存在する芳香族アミノ酸残基の機能。 ChiA1は、活性ドメイン・2つのFnIIIドメイン・キチン吸着ドメインから成る。活性クレフト内部に結晶性キチン分解にのみ必須の芳香族アミノ酸残基があることを明らかにした。 2)B.circulans ChiA1の全体構造の解析. ChiA1を構成するすべてのドメインの立体構造の解析に成功している。しかしその全体構造は不明であった。X線小角散乱によってB.circulans ChiA1の溶液中の全体構造を予測することに成功した。 3)B.circulans ChiA1キチン吸着ドメインのキチン吸着機構の解明。 吸着ドメインのTrp687がキチン吸着に最も重要な残基であることを明らかにした。また、ループの構造変化を伴ってキチンに吸着する可能性が示唆された。 4)S.marcescens ChiB表面に露出した芳香族アミノ酸残基の機能。 S.marcescens ChiBは分子表面に、活性クレフトに向かって直線上に並んでいる2つのTyrと2つのTrpを見いだし、これらが結晶性キチンへの吸着と分解に重要であること、TrpはTyrよりも吸着への寄与が大きく、最もクレフトに近いTyrはキチン鎖を誘導する役割も担うことを明らかにした。 5)S.marcescens ChiAおよびChiBによる結晶性キチン分解。 立体構造の解析からChiAとChiBはキチン鎖を逆方向から分解することが示唆されていた。高結晶性βキチンを用いて、実際にChiAが還元末端側から、ChiBが非還元末端側からβキチン微小繊維を分解することを証明した。
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