研究概要 |
脱炭酸酵素は一般的に逆反応で炭酸固定を触媒しないとされてきた。研究代表者らは、反応条件を制御すると効率的に炭酸固定を触媒する新しい脱炭酸酵素としてピロール-2-カルボン酸脱炭酸酵素、インドール-3-カルボン酸脱炭酸酵素を見いだしてきた。また、微生物によるフェノールの嫌気代謝には炭酸固定反応をも触媒する脱炭酸酵素が関与することが示されており、可逆的脱炭酸酵素群の存在が明らかとなってきた。この酵素群が触媒する一連の反応は化学工業への応用の観点でみると、芳香族化合物への位置選択的なカルボキシル基の導入として意義深い。H15年度は、4-ヒドロキシ安息香酸および2,6-ジヒドロキシ安息香酸の可逆的な脱炭酸・炭酸固定反応を触媒する微生物を幅広く探索し、その反応特性を検討し、ピロール-2-カルボン酸脱炭酸酵素やインドール-3-カルボン酸脱炭酸酵素と比較解析した。 4-ヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素は嫌気性微生物で知られていたが、詳細な微生物分布は報告されていなかった。そこで、酸素感受性を配慮したスクリーニングを行い、細菌・放線菌、酵母における幅広い活性分布を酵素活性レベルで明らかにした。酵素の誘導剤は菌株によって差異が認められたが、基質特異性はほぼ共通していた。いずれの菌株においても炭酸固定機能が認められた。 2,6-ジヒドロキシ安息香酸を用いた集積培養からの分離菌株と研究室保存菌株を用いて、2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素を探索した。Agrobacteriumtumefaciens、Pseudomonas sp.、Alcaligenes sp.に活性が認められ、酵素を精製し、単一標品を得た。本酵素は既知の可逆的脱炭酸酵素に比べて安定性が高く、サブユニット分子量が大きく異っていた。また、A.tumefaciensの酵素遺伝子をクローニングし、酵素一次構造の解析も進めた。
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