最近、D-SerのNMDAレセプターでのアゴニスト機能や、D-Aspによる脳ホルモンの分泌制御などが報告され、真核細胞でのD-アミノ酸の機能が注目されるようになった。しかしD-Serを除けば、真核細胞でのD-アミノ酸の生合成系は不明である。本研究では、ゲノム情報に基づいて存在が予測された、真核生物のD-アミノ酸代謝関連酵素について、その機能や生理的役割を検討した。Schizosaccharomyces pomboには、D-アミノ酸代謝関連酵素遺伝子の候補として、dao1^+、a1r1^+、a1r2^+、srf1^+を見いだした。各遺伝子のクローニングと遺伝子産物の解析を行ったところ、それぞれの遺伝子は、Dアミノ酸オキシダーゼ、アラニンラセマーゼ、アルギニンラセマーゼ、セリンラセマーゼをコードすることが明らかになった。出芽酵母、Saccharomyces cerevisiaseには、アセチルCoAからアセチル基をD-アミノ酸に転移するD-アミノ酸N-アセチルトランスフェラーゼの存在が知られていたが、本研究では、同酵素がヒストンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(HPA2)と約50%の同一性を示すHPA3遺伝子にコードされることを明らかにした。HPA3遺伝子破壊株は、D-アミノ酸による生育阻害を受けやすくなることから、Hpa3PはD-アミノ酸の毒性の緩和に機能すると考えられた。さらに、一次構造上の相同性は有しないが、細菌型アラニンラセマーゼのN-末端ドメインと極めてよく似た立体構造をとるS.cerevisiaseのYBL036C遺伝子産物、Yb1036cpのマウスホモログ遺伝子をマウス脳のc-DNAライブラリーからクローニングし、その遺伝子産物のアラニンラセマーゼ活性を検討した。上述のように、本研究では真核生物に以上6種のD-アミノ酸代謝関連酵素を見い出し、その機能を解析した。
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