多くの酵素は補欠分子族として、低分子有機化合物からなる補酵素を含有しており、補酵素によって、触媒しうる化学反応のレパートリーを広げるとともに、その効率を飛躍的に向上させている。本研究の目的は、このような補酵素を含有する複合型酵素の設計原理を解明するとともに、新規な人工酵素のデザインに応用することにある。今年度は以下の2点について研究を行った 1.ビルトイン補酵素生成機構を解明するため、銅含有アミン酸化酵素のトパキノン補酵素の生成過程を解析した。補酵素生成に必須な銅イオンの結合に関与する保存された3つのHis残基(His431、His433、およびHis592)をAla残基に変換して、TPQ生合成に与える影響を調べた。H433AとH592A変異型酵素についてはX線結晶構造解析も行った。その結果、いずれの置換も大きくTPQ含量とその生成速度を減少させるとともに、銅含量を低下させた。興味深いことに、イミダゾールを加えることによって、H592A変異型酵素ではTPQの生成がレスキューされた。さらに、H433A変異型酵素では銅イオンを加えることによって、電荷移動中間体と考えられる可視長波長領域における吸収帯が現れた。以上の結果から、銅イオンの位置が極めて厳密に決められることが、TPQ生合成において重要であることが判明した。 2.TPQとは異なるリジルチロシルキノン様のキノン補酵素を期待して作成したD298K変異型酵素の結晶構造解析を行った。アポ酵素として生成し、その後銅イオンを添加することによって活性化すると、TPQとは異なる450nm付近に吸収極大をもつクロモフォアが形成させることがすでに明らかとなっていたが、構造解析の結果、382位のチロシンのベンゼン環2位にLys298が結合していることがわかった。さらに、その構造精密化を現在進めている。
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