研究概要 |
シネフンギンは放線菌Streptomyces incarnatusが生産するヌクレォシド系抗生物質である。Candida albicansに対する抗真菌活性を示すほか,トリパノゾーマ原虫にも有効でマラリアの特効薬としても期待されている。シネフンギンはS-アデノシル-L-メチオニンの構造類似体であり,これを基質とする各種のメチラゼ酵素に対して競争阻害剤として働く。標識化合物の取込み実験から,シネフンギンはL-アルギニンとATPを基質として,ピリドキサールリン酸(PLP)を補酵素とする酵素によって生産されると報告されているが酵素の実体はまったく明らかにされていない.これまでに我々は異種発現ベクターpKU110を用いてシネフンギン合成酵素の遺伝子クローニングを行ってきた。シネフンギン生産能を示した組換え体S.lividansTK24を3株得ることはできたが,いずれの株からも組換えプラスミドが検出されなかった。ベクター上のマーカー遺伝子tsrがコードする蛋白質がメチラーゼ酵素の種なので,シネフンギン生合成遺伝子とマーカー遺伝子とが拮抗する可能性があり,これが宿主においてプラスミドが安定に保持されなかった理由と考えられた。そこでマーカー遺伝子をpIJ680プラスミドのネオマイシン耐性遺伝子(aphI)に置き換えた新規発現ベクターの構築を行った。制限酵素ClaI, KpnI処理により,pKU110よりクローニングサイトを含む4.6kb断片とpIJ680よりaphIと放線菌pIJ101oriを含む3.9kb断片を得た。これら断片をライゲーションして大腸菌に形質転換して発現ベクターpTRA502を作成した。詳細な制限酵素地図の作製とDNAシーケンスの結果から目的とするプラスミドであることを確認した。pTRA502は放線菌S.lividansTK24と大腸菌の両方を宿主とするシャトルベクターであり,放線菌ではネオマイシン耐性妙〃が機能し,大腸菌ではアンピシリン耐性遺伝子amp^rが機能した。次に制限酵素Sau3AIを用いてシネフンギン生産菌S.incarnatusのゲノムDNAの限定分解を行い,10kb断片を分画し,βglII処理したpTRA502断片とライゲートしてS.lividansTK24を形質転換した。ネオマイシン耐性を示す形質転換体は少数得られた。現在,組換えプラスミドを持つ形質転換体を効率よく調製する諸条件を検討しており,これによりシネフンギン生合成能を持つ組換え体のスクリーニングを行う。
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