本研究は新規な浸透圧に関与する情報伝達系を粘液細菌の1種であるM. xanthusを用いて解明することを目的としている。前年度はレセプター型アデニル酸シクラーゼが主に胞子の発芽時の浸透圧センサーとして機能していることを明らかにした。今年度は別のレセプター型アデニル酸シクラーゼをコードする遺伝子のクローニングを行い、その遺伝子破壊株を作製することでその機能を明らかにした。 この遺伝子破壊株を用いて表現型を野生株と比較すると、種々の培養温度やpH条件下での増殖、子実体及び胞子形成などの分化において差は見られなかった。そこでイオン及びショ糖を用いた浸透圧ストレス実験を行なうと、浸透圧ストレス下での分化の遂行及び胞子の発芽には野生株と差は見られなかったが、細胞増殖期において野生株より感受性を示し、生育の減少がみられた。このことから、M. xanthusは細胞増殖期及び胞子発芽期に機能する少なくとも2つのセンサー型アデニル酸シクラーゼによって浸透圧を感知していることがわかった。 また、cAMPを分解することで細胞内cAMP濃度を調節しているとされるホスフォジエステラーゼをコードする遺伝子をクローニングし、その遺伝子破壊株を作製した。現在、その遺伝子破壊株を用いて種々の表現型の比較を行なっている。他方で忌避物質や栄養物質を感知するとされるトランスデューサータンパク質をコードする遺伝子をクローニングし、その遺伝子破壊株を作製した。この変異株は部分的に社会的運動(S-motility)を欠失しており、分化や生育に異常がみられた。
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