本研究は新規な浸透圧に関与する情報伝達系を粘液細菌の1種であるMyxococcus xanthusをもちいて解明することを目的としている。浸透圧センサーとして機能するタンパク質の検索を試みたところ、細胞膜結合性タンパク質でN末端にセンサー領域、C末端にアデニル酸シクラーゼの触媒領域を有する2種類のレセプター型アデニル酸シクラーゼ(CyaA及びCyaB)が浸透圧センサーとして機能していることが明らかになった。この遺伝子破壊株を用いて表現型を野生株と比較すると、CyaAは主に分化や胞子発芽時に、CyaBはセンサーとしての機能はCyaAより低かったが増殖期を含む生活環全体に関与していると推定された。これらの遺伝子破壊株ではNaCl及びショ糖などの浸透圧ストレス負荷により、生育や発芽の遅れ、分化における子実体及び胞子形成の減少がみられた。 この菌の浸透圧適応にてcAMPを介した情報伝達系が存在する可能性が示唆されたのでこのセンサー下流に存在するであろう細胞内情報伝達系の検索を試みた。この菌において原核生物で初めてセリン/スレオニンプロテインキナーゼが報告されたことから、cAMP依存性セリン/スレオニンプロテインキナーゼ(PKA)が存在すると考え、この酵素のうち、調節サブユニットをコードしている遺伝子のクローニングを行なった。その結果、クローニングされた遺伝子がコードしているタンパク質はPKA調節サブユニットの構造的特徴である2つのcAMP結合部位を有していたため、遺伝子破壊株を用いて野生株と表現型を比較した。変異株は高温及び低温培養条件下や浸透圧負荷条件下での増殖において野生株より生育の減少が見られた。 以上の結果から、主に浸透圧ストレス条件下において原核生物では報告されていない新規なcAMPを介した情報伝達系が存在する可能性が示唆された。
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