研究概要 |
カルシウム依存性レクチンは生物組織及び体液中に広く存在し,細胞間認識や生体防御機構において極めて重要な役割を果たしている糖結合タンパク質である。今回,カルシウム依存性レクチンとして我々が単離した海産無脊椎動物グミ(Cucumaria echinata)体液中のC型レクチンCEL-Iの構造と糖認識機構を明らかにするために,数種の特異的糖との複合体結晶のX線構造解析を行った。特異的糖としては,GalNAc及びラクトースを用い,CEL-Iとの複合体結晶を作製した後に放射光を用いてデータ収集及び解析を行った。その結果,CEL-Iは糖の3位と4位の水酸基とタンパク質中のカルシウムイオンとの配位結合及び,近傍のアミノ酸との水素結合ネットワークによって糖を認識していること,さらに高い親和性を示すGalNAcに関しては,糖のアセトアミド基と115番目のArgとの2つの水素結合が重要であることが明らかになった。一方,グミ体液中にはもう一つのカルシウム依存性レクチンCEL-IIIが存在するが,このレクチンは強い溶血活性を示す特異なレクチンであり,そのC-末端ドメインに存在する疎水性領域と細胞膜との相互作用により活性を示すものと考えられている。そこでこの疎水性領域に相当する20残基のペプチド3種を化学合成により作製し,細菌に対する作用を検討した。その結果,3種のペプチドのうち,P332と名づけたペプチドがグラム陽性菌,とりわけ黄色ブドウ球菌に対する高い抗菌活性を示すことが見出された。このペプチドは天然の抗菌性ペプチドに匹敵する抗菌活性を示す一方,他のペプチドに見られるような溶血活性が極めて低いことから,新規抗菌性ペプチドとしての用途にも適しているものと考えられた。
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