Amphibacillus xylanus過酸化物分解酵素系は、NADH oxidaseとAhpCの2種タンパクから構成され、複数の官能基が関与する酵素系であるが、酵素反応速度の限界に近い高速で反応が進む特徴を有す。これは応用上極めて有利な特徴と考えられる。最近、A. xylanusの過酸化物分解酵素系とアミノ酸一次配列の相同性の高い(相同性70%)酵素系が高度好熱菌Thermus aquaticusに見いだされた。この酵素系の過酸化物に対する反応性はA. xylanusの酵素に対して著しく低いが、安定である。本年度では2種の過酸化物分解酵素系の立体構造比較を行い、高速反応性の解析を試みた。 1.高度好熱菌とA. xylanusのNADH oxidaseとAhpCタンパクの立体構造比較: サルモネラ菌の過酸化アルキル分解酵素の立体構造を基にして両NADHoxidaseとAhpCタンパクの立体構造のモデリングを試みた。高度好熱菌とA. xylanusの両タンパクは内部アミノ酸配列に高い相同性が観測された。両タンパク表面構造は両菌株間で微妙に異なるが、基本構造は維持されると推定された。高度好熱菌の両タンパクは複合体を形成することが報告されており、A. xylanusにおける複合体形成を検討した。 2.NADH oxidaseとAhpCの複合体形成と電子伝達に関与するアミノ酸残基の同定: 両タンパク間で複合体が形成された場合、AhpCのS-S結合とNADHoxidaseのCys480間でのS-S結合の形成が推定される。2-メルカプトエタノール無添加のSDS-PAGEとそのウエスタンブロッティングを野生型NADHoxidaseとC480Sミュタントで行った。野生型ではAhpCとの複合体形成が観察されたが、C480Sでは観察されなかった。このミュタントで過酸化物分解活性が観測されたことから、このCys480はAhpCタンパクへの電子伝達には関与しないと考えられる。NADH oxidaseにはCys480の他、電子伝達に関与が推定される4個のシステイン残基が存在する。これらの部位特異的変異酵素を用いて、複合体形成と高速電子伝達の機構を解明する予定である。
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